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Yuka Kobayashi & Rika Hayashi

【株式会社ニューオータニ】夏プール 純広

『東京カレンダー』掲載見開き記事広告、
“ホテルニューオータニ POOL MAITAI”のために書いたショートストーリーです。
今改めて読み返すと思うこといろいろありますが転載しました。

POOL MAITAIは毎年7月末にオープンします。
昼より夕暮れ〜夜が断然ロマンチック。
プールサイドで飲むマイタイは格別です。
ほろ酔いで波間にたゆたうのも心地よいです。

CL:株式会社ニューオータニ
D:小川岳人(GAKUJIN)

眠れない日がずっと続いている。

新しいプロジェクトの
立ち上げに参加して以来、昼夜ない。
既に白み始めた空を眺めながら帰途につく。
タクシーの窓から遠く見る朝焼けは美しい。

彼女はどうしているだろう。

こんな時間に
電話をかけるわけにはいかないしな、と
思い直して目を閉じる。

携帯電話に残る数回の着信歴。
僕はいつも気づくのが遅すぎる。

水曜の昼、彼女から電話がある。
最後の着信から一週間が経っていた。

「わたしも忙しくて」と、
連絡がとれなかったことを彼女が詫びる。

互いに責任のある役職に就いているのだ。
時間がないのは仕方がない。

僕の言葉に一拍おいて彼女は言った。

「金曜の夜、逢いたいのだけれど」

彼女の素直な声がこころに響いた。

すぐさま金曜の夕方までに
仕事を片付ける段取りを考え始める。

ホテルニューオータニのプールで
待ち合わせようと申し出たのは彼女だ。

週末の夜は心地よい音楽が聞けるの。
ふたりとも忙しくて旅行なんてできないでしょう?
だからエスケープしようと思って。

久しぶりに逢った彼女は少しだけ痩せたようだった。

朱色に染まる水面をなでて、美しいフォルムで彼女が泳ぐ。
僕はプールサイドのデッキチェアに横たわり、
茜色の空を仰ぎ見て目を閉じた。風が静かに吹いている。
いつのまにか彼女は隣にいて、さりげなく僕の腕を触った。

仕事、忙しそうね。
きみもね。
時計の跡。
昼間は現場をまわるから、結構日焼けするんだ。
海に行かないのに。
そう、海には行かないのに。

彼女もまた、空を仰ぎ見る。
DJがちらりと視線を投げかけ、BGMをボサノヴァに変えた。
遠い空に星が瞬き始める。

僕たちはプールサイドのバーが
クローズする時間が近づいたのを機に
最上階のバーへと席を移した。

もっとゆっくり話したい。

極彩色の輝きを放つ夜景を眺めながら、
僕たちはカクテルを手に寄り添い、静かに語る。
でも、今抱えている仕事について
ひとしきり説明をしたところで、
彼女が人さし指を僕の唇にあてた。

「エスケープと言ったでしょう?」

怒った口調ではなく、笑って僕をたしなめる。
彼女は視線を窓の外に向けて頬を緩めた。

あなたといるときくらい女でいたいのよ。

4月から管理職に就いた彼女らしい発言だった。

嘘よ。仕事の話を続けて。
もっといろんなことを教えて。

朗らかに笑う彼女を今度は僕が制する。

部屋に戻ろうか。

もう酔ったの?と彼女が茶化す。

僕は少し笑って彼女の手をそっと握った。

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