【OZ magazine 別冊】ショートストーリーで魅せるレストラン広告
雑誌『OZ magazine』別冊の連合広告です。
30件近いレストランをショートストーリー形式で紹介しました。
企画構成、執筆をすべて担当しました。
D:笛木暁
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一緒に暮らし始めて5年。
僕たちは結婚記念日を毎年アントニオ横浜で過ごすことにしている。
店員はちゃんと覚えていてくれて、
記念日に予約をすると、いつも決まった席を用意してくれるのだった。
彼女と初めて一緒に食事をしたのも、プロポーズをしたのもここだ。
彼女を初めてデートに誘ったときは緊張した。
「日本にイタリア料理を紹介した老舗のイタリアンがあるんだ。
行ってみたいと思わないか」
食べ歩きが趣味と聞いて彼女の興味を惹き付けられると考えついた。
当時を振り返って彼女は今でも思い出し笑いをする。
「だってあなたったらガチガチに緊張しているんだもの。
わたしが『いいえ、全然』と言ったらどうするつもりだったの」
でも、そんな台詞が彼女の口から出ることはなく、
この店での食事をきっかけにふたりの仲は急接近したのだった。
その時は緊張のあまり何を頼んだかすら覚えていないが、
今では料理名をそらで言えるくらいなじみ深い店である。
正統派のイタリアンは、いつ食べても美味しい。
ある日のこと。仕事中に彼女から電話があった。
「今日は外で食事しない?」
彼女が勤務中に電話をしてくるなんて珍しい。
今日は何かの記念日だったっけ。
そう思いながら店に向かうと彼女はすでに着いていた。
横浜の夜景を見下ろすいつもの席で彼女がスペシャルディナーを頼む。
「やっぱりこの店、おいしいわよね」
満足そうな表情の彼女に「今日はどうしたの?」と尋ねてみる。
「あのね、秘密にしてたんだけど」
「?」
「わたしたち、8月にパパとママになるわ」
僕は目を丸くして驚き、そして驚喜した。
「つわりがないから気づかなかったの。
むしろもっと食べたいくらい。きっとこのコ、美食家になるわ」
彼女は幸福な笑みを浮かべて牛肉のソテーを頬張った。